広島大学千原研究室

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2、 ショウジョウバエで筋萎縮性側索硬化症ALSの発症メカニズムを理解する

筋萎縮性側索硬化症 (ALS)は、運動神経が障害され、手足や発語、呼吸をするための力が徐々に失われていく病気である。発症者の5〜10%は家族内で発症し、家族性(遺伝性)ALSと呼ばれている。それ以外のALSは孤発性ALSと呼ばれ、複数の遺伝要因および環境要因が関与すると考えられている。家族性ALSに関わる遺伝子としては、SOD1、FUS/TLS、TDP-43がよく知られており、その発症メカニズムに関して世界中で研究が進められている。私たちは、家族性ALS関連遺伝子の一つであるvesicle-associated membrane protein/synaptobrevin-associated membrane protein B (VAPB)に着目して研究を進めている。

VAPBは細胞内の小胞体という細胞内小器官に存在する膜タンパク質で、小胞体と他の細胞内小器官(ミトコンドリアやゴルジ体など)を繋ぐ役割をもつ「繋ぎ止め分子」として知られている(J Biochem 165, 391-400, 2019)。さらにVAPBタンパク質は切断され、その一部(MSP断片)が細胞の外へ分泌されることも知られている。興味深いことに、上述の孤発性ALS患者の脳脊髄液においてMSP断片の量が顕著に減少していることが報告された(Eur J Neurol 21, 478-485, 2014)。このことから、VAPBは家族性ALSの原因遺伝子(の一つ)であるという事実に留まらず、孤発性ALSの発症メカニズムを理解する上でも重要な分子であると考えられる。

私たちは、まずはVAPBの正常な機能を理解することがALS発症メカニズムの理解につながると考え、ショウジョウバエの遺伝学的手法を用いてVAPBの生理機能の解明を目指している。ヒトの疾患を理解するためには、できるだけヒトに近い生き物、例えばサルやマウスを用いた研究をすべきであるという意見もある。確かにショウジョウバエは無脊椎動物の昆虫であり、我々ヒトとは大きく違う。しかし、これまでショウジョウバエを用いた研究により、身体の作り方(初期発生遺伝子、Hox遺伝子など)、自然免疫、概日リズムの理解など、多くの生物で共通する生命現象を明らかにすることに貢献してきている(これらの発見はすべてノーベル生理学・医学賞の受賞につながっている)。ショウジョウバエは、ヒトVAPBと構造・機能が類似したタンパク質 Vap33を持っているため、私たちは、ショウジョウバエVap33の細胞内における機能、およびその切断・分泌メカニズム、更には細胞外におけるMSP断片の生理機能までを体系的に理解することを目指している。

さらに詳細を知りたい方は、千原()までご連絡ください。

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