5、 摂食行動の進化を支える分子基盤とは?
同じ遺伝子型であっても異なる摂食行動を示す!
さらに、P. pacificusは口腔形態の違いに伴って摂食行動にも違いが見られる。幅広型線虫は他の線虫に対する捕食行動に適しているのに対し、狭小型線虫はほかの線虫を噛み殺すことはできない。P. pacificusの捕食行動の動画はこちら。口腔形態の表現型可塑性に伴った摂食行動の違いがどのような神経回路の変化によって制御されているか、またそのような神経回路の変化が環境に応答してどのように形成されているか、遺伝学やゲノム編集技術などを駆使することによって解明することを目指している。
線虫の摂食行動はどのように進化してきたのか?
C. elegansやその近縁種はバクテリア食性であり、P. pacificusのような捕食行動はみられず、捕食行動は進化的に新しい行動であると考えられる。私たちはP. pacificusの捕食行動がどのように制御されているか明らかにし、新しい行動が進化の過程でどのように獲得されてきたか明らかにしたいと考えている。これまでにゲノム編集技術を用いることで、神経伝達物質であるセロトニンがバクテリア摂食や捕食行動に関与していることを明らかにしている(Okumura et al., 2017, G3; Ishita et al., 2021, G3; セロトニンによる線虫の摂食行動の制御に関しては総説も発表済みIshita et al., 2020, Neuroscience Research)。
さらに、捕食行動に関わる未知の遺伝子を同定するために、順遺伝学的スクリーニングを行い、捕食がみられない変異体を複数単離している。その原因遺伝子を解析した結果、アスタシンメタロプロテアーゼというタンパク質分解酵素の一つがその発現場所を変えることで、P. pacificusとC. elegansで異なる摂食器官の形態形成に機能することを明らかにした(Ishita et al., 2023, Molecular Biology and Evolution)。
線虫の小さな神経系において多様な行動がどのように制御されており進化してきたか、C. elegansやP. pacificusを中心として比較解析を行うことで明らかにしようと考えている。
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